大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ワ)985号 判決 1963年8月30日

判   決

東京都千代田区丸の内一丁目一番地

原告

日本国有鉄道

右代表者総裁

十河信二

右代理人

世良貞孝

(ほか四名)

東京都板橋区成増町六一〇番地

被告

河元雅夫

東京都港区高浜町一〇番地

被告

株式会社鉄道日の出組

右代表者代表取締役

天野登一郎

右被告等訴訟代理人弁護士

田口俊夫

右当事者間の昭和三七年(ワ)第九八五号建物収去土地明渡請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告河元雅夫は原告に対し、別紙物件目録第一記載の土地上に存する同目録第二記載の建物を収去して当該土地を明渡せ。

被告株式会社鉄道日の出組は原告に対し別紙物件目録第二記載の建物から退去してその敷地を明渡せ。

被告等はそれぞれ原告に対し、金一三、〇一三円及びこれに対する昭和三七年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員並びに昭和三六年一二月一日から右土地の明渡しに至るまで一ケ月金一、六二六円の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告は主文第一、二項同旨及び「被告等は原告に対し金一六、二六六円及びこれに対する昭和三七年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員並びに昭和三六年一二月一日から別紙物件目録第一記載の土地の明渡ずみに至るまで一ケ月金二、〇三三円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とす。」との判決並びに仮執行の宣言を求めその請求原因として、

「一、原告は被告株式会社鉄道日の出組(以下「日の出組」という)の出願に基き同被告に対し使用期間を昭和三三年四月一日から昭和三六年三月三一日まで使用料を一ケ年一九、五二〇円と定めて原告の品川駅構内にある原告所有の別紙物件目録第一記載の土地(以下「本件土地」という。)の使用を承認した。右使用期間が満了しても、依然として被告河元は別紙物件目録第二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、被告日の出組は本件建物を占有使用して、原告所有の本件土地を占有している。

二、本件土地は原告の設立以前国が所有し、品川駅構内の土地として企業用に供せられ国有財産法上の行政財産であつた。昭和二四年六月一日原告が日本国有鉄道法施行により本件土地を承継取得した。その当時依然として国有財産法が適用されていたが、昭和二五年四月一日国有財産法の適用が排除された。

しかし原告は日本国有鉄道法によつて設立された公法上の法人で、強度の公共性を有し、いわば国の一分体としての性格を有するものであるから、原告がその事業の用に供している財産は国有財産法上の行政財産に類する取扱を受けなければならない。従つて、原告は現に右財産を行政財産と同様の取扱をし、その用途又は目的を妨げない限り国鉄以外のものに貸し付けることができるとし、(昭和二七年一〇月二四日総裁達第六〇〇号日本国有鉄道固定財産管理規定第六一条)この用途又は目的を妨げない限度で使用又は収益させることを原告は使用承認とよんでいる。(昭和三二年三月三〇日公示第九九号日本国有鉄道土地建物貸付規則第三条(2))従つて、この使用承認契約は私法上の使用貸借又は賃貸借そのものでなく、私法上の無名契約であるから、借地法の適用を受けるものでない。

本件土地は告川駅構内にあり、被告日の出組は同構内にある原告の品川木材防腐工場の枕木代納業務をいとなんでいたので原告はその事業の必要上被告日の出組に本件土地を使用承認していた。従つて本件土地の使用承認は上述のとおり無名契約で借地法の適用がなく、使用期間満了とともに使用承認は終了した。

三、よつて原告は被告河元に対し本件建物を収去して本件土地の明渡しを、被告日の出組に対し本件建物から退去して本件土地の明渡並びに被告等に対し昭和三六年四月一日から同年一一月三〇日までの間の右土地の使用料相当損害金一六、二六六円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三七年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金並びに昭和三六年一二月一日以降明渡に至る迄一ケ月金二、〇三三円の割合による使用料相当の損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。」と述べ証拠として甲第一至乃第五号証を提出した。

被告両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

「一、原告主張の請求原因事実第一項は認める。

二、原告と被告日の出組との本件土地の使用承認の法律関係は名は使用承認であるが、建物所有を目的とした土地の賃貸借である。従つて借地法の適用があり、原告と被告日の出組の間の合意で強行法である借地法に反するものは皆無効である。従つて原告の期間満了による明渡の請求は更新拒絶の意思表示とみるべきであるから、その正当な事由を主張しなければ、本訴請求は理由がない。

三、本件の土地の使用承認は賃借契約であることは次の理由から明らかである。

(一) 日本国有鉄道法には同第四六条に貸付期間中における契約解除の規定があるだけで、貸付期間満了による法律関係について規定がない。日本国有鉄道土地建物貸付規則第二条によれば「国鉄の管理する土地又は建物を他に貸し付ける場合は法令その他特別に定めるものによる外、この規則の定めるところによる。」とあつて、貸付に借地法等の適用があることを前提としている。

(二) 日本国有鉄道法第四五条に財産の貸付その他の処分の制限規定があるが、本件土地は同条第一項の営業線にあたらず、又同条第二項の重要な財産にあたらず、従つて同条の処分制限を受ける財産にあたらない。本件土地の使用承認は私法上の契約であるから、右のような処分制限がない以上、賃貸借と解すべきである。蓋し、貸借は使用貸借及び賃貸借に限られ原告主張のような無名契約というものは賃貸関係に考える余地はなく、又原告の主張のように特別権力関係をたんに総裁の発する公示(法律で授権されたものでない。)で定めても原告の内部関係を規律するにとどまるもので第三者に対する効力はないから、この点に基き無名契約とすることもできないからである。

(三) 本件使用承認の経緯から見ても賃貸借であることが明らかである。そもそも被告河元が昭和一一年頃から国鉄品川木材防腐工場に加工用の木材を搬入し、同工場の製品を運送することを業としていたが、右工場の責任者の要求によつて品川駅構内にある本件土地を借り受けることとなり、その際右責任者の一応一年毎に契約を書き変えるが、被告河元に不都合がない限り永久に右事業がやれるとの約を承諾し、爾来一年毎に契約を更新しながら本件土地を賃借し、昭和二九年一一月一六日被告日の出組が右事業を承継してからは被告日の出組が借り受け、最後の使用承認が原告主張の請求原因第一項のとおりであつた。」と述べ、甲各号証の成立を認めた。

理由

原告主張の請求原因第一項の事実は、当事者間に争がない。

そこで本件土地の使用関係について借地法の適用があるかを考える。原告は昭和二四年六月一日日本国有鉄道法の施行により設立された公法上の法人で、従前国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営していた鉄道事業その他一切の事業を国から引き継いで経営し、能率的な運営によつてこれを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的とするものである。(日本国有鉄道法第一条、第二条)

原告の事業が従前とことなり国から独立した原告において経営されることになつたのはその能率的な運営を目的としたことにあるので、事業そのものの公共性は従来国が経営していたときと変らない。従つて原告の財産の管理処分については国有財産の場合と同様公共性の立場からその法律関係を考えなければならない。原告の財産のうちにもその事業の用に供されないものがあることは国有財産のうち普通財産があるのと同様である。しかしこのような財産の貸付は原則として民法の賃貸借にあたるが、しかし日本国有鉄道法第四六条はこのような不動産貸付について貸付期間中でも原告の事業の用に供するため必要を生じたときは、解除できることを定め、不動産賃貸借に関する民法、借地法及び借家法の規整の例外をなしている。(この規定は国有財産法第二四条に相当する。)このような例外を規定した根拠は国の事業と同様原告の事業の公共性にある。原告の事業に供せられる財産はその用途又は目的を妨げられない限度において、これを貸付けることがあることは、国有財産の例と同じである。この場合の貸付は絶えず事業の公共性の立場から法律関係を規整しなければならないから、その使用に種々の制限を付し貸付期間を定め、貸付期間満了と共に貸付が終了するものとして、事業に必要な限度において民法、借地法、借家法の諸規定を排除できるものと解するのが相当である。これら民法等の規定は賃貸借における貸主対借主の私益の調整を目的としているもので、前記の場合は公益対私益の問題で、かかる場合までを規整するものでないからである。このことは前記第四六条の趣旨からも肯認できる。期間満了における更新制度がない等の不利益が借主に存しても、これは右の趣旨からいつて当然のことである。

本件土地が原告の品川駅構内にあること及び被告日の出組が品川駅構内にある原告の品川木材防腐工場に木材を納入する業務を営んでいるため、使用承認の形で貸付けられたことは当事者間に争がなく、この事実と成立に争のない甲第三号証の記載によれば本件土地の貸付は契約の名義どおり、その実質も前記の性質を有する使用承認と認めるのが相当で、被告の主張するように使用承認の名をかりた賃貸借とみることはできない。このことは被告の主張するような貸付の経緯があつたとしても、左右されるものではない。被告は貸借関係に使用貸借及び賃貸借以外に無名契約が存在することはできないと主張するが、かく解すべき理由はない。また被告は使用承認は原告内部の関係で第三者に対抗できないと主張するが、使用承認は上述の如き一つの特殊契約で何等原告内部の問題ではない。日本国有鉄道土地建物貸付規則第二条の文言についても使用承認につき被告の主張する如く借地法の適用を規定していると解釈しなければならない根拠はない。

本件土地の使用承認は昭和三六年三月三一日をもつて使用期間が満了したことは当事者間に争がなく、上述した理由により借地法の適用はないから、右使用承認は右期間満了により終了する。従つて被告日の出組は原告に対し本件土地を明渡すべき義務があり、被告河元は本件建物を所有して本件土地を占有する権限がないから、本件建物を収去して原告に対し本件土地を明渡す義務がある。本件土地の使用料が年一九、五二〇円であることは当事者間に争がない。従つて被告等はそれぞれ原告に対し使用承認の終了した翌日である昭和三六年四月一日から同年一一月三〇日までの損害金として同期間の使用料相当額一三、〇一三円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三七年一月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに昭和三六年一二月一日から本件土地明渡ずみまで一月一、六二六円の割合による使用料相当の損害金を支払うべき義務がある。原告の損害金の支払を求める請求のうち、右認定額をこえる部分は証拠がない。

よつて原告の請求は右認定した限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言の申立は相当でないからこれを却下する。

東京地方裁判所民事第二五部

裁判官 上 野   宏

物件目録(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例